2024年10月11日(金)、所用で福島を訪れたついでに安達太良山を登った。初めて東北の山に登る。
温泉のある奥岳登山口からロープウェイを利用し山頂駅へ。そこから時計回りで頂上に立ち、くろがね小屋を経由で下山する周回するコースだ。
距離 | 9.8km |
高低差 | 750m |
コースタイム | 4:30 |
関西から登山口までアクセス
あだたら山ロープウェイのある奥岳登山口から登る。
公共交通の場合、JR東北本線の二本松駅から福島交通バスで奥岳(山麓駅)まで行くことができる。登山口には1,000台の無料駐車場(繁忙期は第一駐車場は1,000円)がある。
今回は京都から夜行バスで福島の二本松バスストップ(BS)にて下車し、路線バスに乗り換えて奥岳登山口へ向かう。
前日の10日、仕事を定時で終え、30Lのザックとトランクを携え京都駅へ向かう。
21:53発の近鉄高速バスギャラクシー号に乗り込む。車内は冷房がよく効き、特に3列シートの窓際は冷気を感じる。フリースを着込むが背中や足先の寒さで何度か目を覚ます。ダウンを持ち込めばよかったとおぼろげに悔やむ。

翌朝、車窓のカーテンから陽が漏れている。そっと布をずらすと昇ったばかりの太陽が眩しい。
バスは6時に那須高原SA、6:40に須賀川、7時過ぎに郡山駅とおよそ30分巻きで運行する。車内でトイレを済ませて朝食にする。おにぎり2個とザバスを流し込む。
私は二本松BSから、福島交通バスの岳下住民センターバス停までの乗継ぎが鬼門と考えていた。
二本松への到着予定は8:00である。約600m程離れた岳下住民センターバス停から奥岳行きの路線バスが出るのは8:19だ。移動時間が19分とタイトなので高速バスが遅れたり、徒歩での移動で道に迷ったりすると計画が狂う恐れがあった。事前に地図とストリートビューでルートを確認する。
夜行バスは予定の8時よりも早く7:46に二本松BSに到着した。ひと安心だが油断はできない。高速道路下の通路を抜け、長閑な住宅地を足早に岳下住民センターのバス停に向かう。約10分、8時丁度に着いた。

8:13の二本松駅前発の奥岳行に乗れるだろうかと心配していたが、杞憂だった。
バス停は日本家屋風の東屋で、ベンチに蜘蛛の巣が張り蛾の亡骸が転がっている。トランクに不要な荷物を移したかったので、「ごめん」と心で唱えて備付の箒で腰掛けを払う。
しかし定刻を過ぎてもバスがやってこない。乗り過ごしたかと不安を覚えるが、バスの位置情報を調べると遅れているだけと分かりほっとする。普段なら何ということのない遅れも慣れない土地では気にかかるので、便利な仕組みがありがたい。
定刻8:19から少し遅れて8:23にバスがやってきた。座席は登山者風の人達で満席に近いが何とか座れた。
8:39に岳温泉のバス停で停車する。ここで5名くらいの登山者がさらに乗り込む。「ニコニコ共和国国会議事堂」という名前の建物がある。佐古清隆『ひとりぼっちの百名山』で「面白い取り組み」と評されていたのを思い出す。1982年〜2006年の間、ミニ独立国家を謳う町おこしの取り組みが行われていたそうだ。
JICA NTCの施設を経由し、バスは9時前、所要45分程で奥岳登山口に着いた。
ロープウェイ駅から頂上まで

山に近づくに連れて雲が増え、登山口ではすっかり曇天となった。
山麓駅にはコインロッカーがあるが機内持ち込みサイズのトランクは入らなかった。切符売り場のお兄さんに尋ねると、売店で預かってもらえることになった。

ロープウェイを使い10分で頂上駅に着く。相乗りした男性2人は東京と福岡からだった。雲が残念と語る。山頂では晴れるよう一縷の望みをかける。

9:25ロープウェイの頂上駅に着く。携帯電話の電波が届く。準備体操して9:40に出発する。
すぐに薬師岳展望台に着く。山頂は雲中だが山肌が薄ら色づき始めている。

肌がほんのりと湿る。長Tシャツとフリースで心地よい気温だ。
「ほんとの空」と書かれた標柱が立っていた。高村光太郎の『智恵子抄』の一編「あどけない話」で智恵子の郷愁をかきたてた空だ。
智恵子は東京に空が無いといふ、
ほんとの空が見たいといふ。
私は驚いて空を見る。
桜若葉の間に在るのは、
切つても切れない
むかしなじみのきれいな空だ。
どんよりけむる地平のぼかしは
うすもも色の朝のしめりだ。
智恵子は遠くを見ながら言ふ。
阿多多羅山の山の上に
毎日出てゐる青い空が
智恵子のほんとの空だといふ。
あどけない空の話である。
見上げると空は雲に覆われている。少し待ってみる。一瞬、雲の切れ間に青空が見えた。ほんとの空を見られ満足する。

笹、石楠花、松のような針葉樹に覆われた緩やかな上り坂は、木道や踏石が整備されている。歩きやすいのでペースが上がりフリースを纏う肌が薄ら汗ばむ。一枚脱いで長袖Tシャツとドライレイヤーで歩く。

暫く進むと登山道らしく道幅が狭まり岩も現れる。そんな箇所で渋滞が発生している。しばらく後ろに付き少し息を整える。
平坦な場所で団体さんが道を譲ってくれた。追い抜きざまに「ありがとうございます。どうも」と謝意を伝えるが、大行列なので終盤は疲れてきて奈良の鹿のごとくお辞儀を繰り返す。

表登山道 仙女平への分岐を見送る。笹に覆われいる。あまり歩かれていないのだろうか。

10:45、山頂手前で展望が開ける。振り返ると山頂駅が見えた。紅、黄、茶、緑の葉が山肌を彩り見惚れる。
写真に収めようとカメラを取り出すが、すぐにガスが覆い隠してしまった。青空の背景が加われば満点だ。山頂に望みをかける。

頂上からくろがね小屋を経由し下山
11:10、安達太良山頂上直下に着く。ガスがかかっているので近づいて突如それと分かった。

山頂の乳首と呼ばれる岩山も乳白の霧に包まれ薄らしている。確か北八ヶ岳にも乳首があったと思い出す。

最高点の乳首は標高1,700mとキリが良い。石の祠が祀られていたので手を合わせ、展望はないが登頂の証拠写真を撮る。

霧が晴れるのを待つべく岩山から降りて昼食にする。おにぎり2個食べ無線交信も楽しむ。
雲が流れ時々下界や山並みが見える。日差しが少なく風があると肌寒いのでレインウェアを羽織る。

13:10、下山開始する。
牛の背と呼ばれる広い尾根道を雲中散歩する。晴れていれば広い外輪山の上を気持ちよく歩けるのだろう。相変わらず風が強いのでフリースとカッパを着て歩いて丁度良い。

馬の背鞍部にあたる沼尻分岐からは、晴れていれば火口湖の沼ノ平が見下ろせるようだ。そこで出会ったおじさんに以前に撮ったという写真を見せてもらう。荒涼とした黄土色のクレーターは月面を思わせる絶景だ。僕も5分程粘るが雲に覆われたままだった。
晴れれば鉄山に向かおうと思っていたが諦め、右手に進路をとる。ごろごろとした岩場を降る。ちょろちょろとした流れを何度か横切り降っていく。

13:50に峰の辻に着く。今回はここから下りは最も紅葉していた。すれ違った女性は今日、鉄山の避難小屋に泊まり、明日は磐梯山、明後日は那須山と連休に一日一座登るという。憧れる。

14:25にくろがね小屋に着く。野草の図鑑を手にした青年とお爺さんが足元を見下ろし、熱心に草花と見比べている。声をかけると小屋番さんであった。

小屋のはんこをもらえるか尋ねると、建て替えののため閉鎖しているという。工事期間は3年以上かかるだろうとのこと。
また、ここは陽当たりの兼ね合いで安達太良山でも紅葉が最も美しい場所だが、今年は色づきがいまいちと聞く。建て替えが終わったら福島出身のS君を誘い再訪しよう。

ここからは林道だ。
至勢平を過ぎ、八の字頭分岐にやってくる。

ここから車の通れる幅の馬車道と山道の旧道に分かれる。私は旧道を行く。粘土が足跡の形に抉れそこに水や腐葉土が溜まっている。ぬかるみに手こずる。一度スリップして手をついた。幸い怪我は無かったが二度目に備え手袋を着ける。
再び林道に出て渓谷をわたる烏川橋を越える。くろがね小屋まで商用電源を引く為、重機が入り工事をしていた。まもなく奥岳登山口のあるあだたら山スキー場だ。15:55に戻った。

温泉に立ち寄りたかったが帰りのバスの時刻が迫っていたので断念する。靴を洗い、トランクを回収しお土産のおやつと絵葉書を買う。16:15のバスに乗り16:59二本松駅に着いた。

郡山駅前の郡山シティーホテルにチェックインする。
部屋でTVをつけると、18時のニュースでノーベル平和賞の発表を聴く。なんと日本被団協だ。被爆者の立場から核兵器廃絶を世界に訴えてきた日本原水爆被害者団体協議会だ。日本の平和賞受賞は、佐藤栄作氏以来50年振りという。

夕食は、ホテルで教えてもらった郡山ラーメンの店「中華そば ますや」でいただく。黒いスープが富山ブラックを彷彿させる。郡山の駅前西側を散策し、ホテルに戻った。
費用
- 高速バス(京都八条口〜二本松BS):12,400円
- 路線バス(岳下住民センター〜奥岳)往路:800円
- 路線バス(奥岳〜二本松)復路:800円
- あだたら山ロープウェイ:1,200円
- ホテル(1泊2食):6,800円
- 夕食 中華そばますや:1,100円
- 合計:23,100円
参考
- 竹地里加子編『日本百名山登山地図帳 上』JTBパブリッシング、2016年8月1日、p.p. 54, 55, 119
- 山と高原地図11『磐梯・吾妻・安達太良』昭文社、2024年
- ヤマレコ 山のデータ(2025年9月15日最終閲覧)https://www.yamareco.com/modules/yamainfo/ptinfo.php?ptid=21
- あだたら山ロープウェイ(2025年9月15日最終閲覧)https://www.adatara-resort.com/green/express.stm
- 福島交通バス(2025年9月15日最終閲覧)https://www.fukushima-koutu.co.jp
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