1月 北八ヶ岳を新春登山!天狗岳・茶臼山・縞枯山を2泊3日で縦走 1日目

山行

はじめに

 山友達と正月休みに新春登山に行こうと話し合い、唐松岳、荒島岳、谷川岳などの候補から選んだのは北八ヶ岳です。

 北八ヶ岳の魅力は、大展望の天狗岳ピークハント、氷結した白駒池、縞枯れ現象の見られる樹林帯歩きなど見どころの多さでしょう。

 また、今回は私にとってはじめての雪上テント泊を計画しています。北八ヶ岳には冬季営業している小屋が多く補給やトイレも充実しています。天候不良などのいざという時に避難できるという安心感もあります。

 さあ、どんな景色が待っているのでしょうか。

基本情報

  • 日程:1月2日〜4日
  • 山域:八ヶ岳(長野県・山梨県)
  • 山名:西天狗岳(標高2645.8m)、東天狗岳(標高2646.3m)、ニュウ(標高2351.9m)、茶臼山(標高2384m)、縞枯山(標高2403m)
  • 体力:★★★★☆
  • 技術:★★★☆☆
  • 展望:★★★★★
  • コースタイム:17:28(標準)/ 23:17(積雪期) 
  • 距離:約19.2km
  • 最寄り駅:JR茅野駅
  • 最寄りIC:中央自動車道 諏訪IC
  • 駐車場:渋の湯(1000円/日)

コース概要

 天狗岳から縞枯山へと北上する縦走コースです。行程は以下のとおりです。

ヤマレコにてコースタイムを割り出したコースタイムは以下の通りです。

行程 距離 コースタイム(標準) コースタイム(積雪期)
1日目 渋の湯〜黒百合平(ザックをデポ、テント設営)〜中山峠〜天狗岳〜天狗の奥庭〜黒百合平(黒百合ヒュッテにて幕営) 6.3km 7:30 9:46
2日目 黒百合平〜中山峠〜ニュウ〜白駒池〜青苔荘(デポ、テント設営)〜高見石〜白駒池(青苔荘にて幕営) 6.8km 6:13 8:07
3日目 白駒池〜麦草峠〜茶臼山〜縞枯山〜北八ヶ岳ロープウェイ山頂駅 6.2km 3:45 5:24

無雪期のタイムを1.5倍した積雪期のタイムは以下の通りです。

図 積雪期コースタイム(無雪期×1.5倍)
出典 ヤマレコ

無雪期のコースタイムは以下の通りです。

図 コースタイム(標準)
出典 ヤマレコ

 登山口のある渋の湯へは車でアクセスし、帰りは北八ヶ岳ロープウェイの山麓駅からタクシーで渋の湯に戻ります。タクシー代は3名で折半します。

 逆ルートで南下する行程も考えられます。実際にそのコースを歩いている方とも出会いました。その場合、北八ヶ岳ロープウェイの駐車場なら3日分の駐車場代がかからない利点があります。

 今回は天候が良さそうで、なおかつ体力的に余裕の有りそうな1日目に天狗岳に登るため、南から北へ向かうことにしました。

アクセス

今回は、渋の湯登山口からスタートします。

渋の湯へのアクセス方法は、黒百合ヒュッテのホームページが参考になります。

図 黒百合ヒュッテ「アクセス」
出典 黒百合ヒュッテHP

御射鹿池の市営無料駐車場を利用し、明治温泉入口バス停よりバスで渋の湯まで行くこともできるそうです。

公共交通

 JR茅野駅からアルピコ交通のバスでアクセスできます。バスの本数は1日に2〜3便と限られていますので、利用の際は発車時刻などにご注意ください。

以下に参考になるサイトを載せておきます。

マイカー

 今回は早朝発ですので、渋の湯御殿の駐車場を利用させてもらいます。駐車料金は1日あたり1,000円です。

 関西を前日の21:00過ぎに車で出発し、登山口の渋の湯へ翌日の3:00過ぎに到着しました。

図 早朝の渋御殿湯

 渋の湯付近の道路は凍結していましたが、今回はスタッドレスタイヤで走行できました。ただ執筆時において2020年初頭は記録的な暖冬と言われています。みなさんが行かれる際は路面状況の確認をお願いいたします。

図 渋の湯の登山口にある旅館 渋御殿湯

 川の左岸にある駐車場にはロープが張られており、どこに駐車したらよいのかが分からず一時さまよいましたが、以前に来たことがあるという方は、渋御殿湯の正面玄関前に駐車していました。

 正面入口に張り紙があり、駐車の受付は6:00以降とのこと。私たちも玄関前に駐車し6:00頃まで仮眠しました。

図 渋御殿湯の張り紙

 6:30に温泉の玄関に明かりが灯り、建物の中で受付をしました。書類に車のナンバーと住所、氏名などを記入し3日分の駐車料金として3,000円を支払うと、宿の方が駐車場に案内してくださいました。

山行記録

渋の湯を出発し黒百合平へ

 6:40、砂防ダムの前の登山ポストに登山届を提出し出発します。鉄製の橋を渡り、川の左岸の分岐を指導標「天狗岳 黒百合平」の表示に従い進みます。

図 登山指導所
砂防ダム下流の橋を渡る

 御小屋尾根までは樹林帯の急な登りです。冬のテント泊装備を背負っての急登におしりの筋肉が攣りそうになります。

 木々に付いた新雪の美しさを励みに一歩ずつ歩を進めます。登山道の雪はしっかりと踏まれており、冬靴でアイゼンをつけずに登ります。同行者はチェーンスパイクを履いて快適と話していました。

図 御小屋尾根

 7:35 御小屋尾根に乗り、唐沢温泉から道との分岐に至ります。

図 8:09 唐沢温泉との分岐

もう一息で黒百合平です。

図 8:27 巻道の看板を通過

黒百合ヒュッテにチェックイン

 9:00前に黒百合ヒュッテに到着です。まず、小屋でテント泊の受付をします。留意事項を聞きテント泊の費用を支払います。

図 黒百合ヒュッテ

黒百合ヒュッテの基本情報は以下の通りです。

  • テン泊費用:1,000円/泊
  • テント場:小屋に至近。空の開けた緩やかな谷。
  • 水:厳冬期のテン泊者への水の無料提供は無い。雪を溶かして自ら作るか、ペットボトル飲料を購入する。
  • トイレ:小屋内のトイレを利用できる。水洗式のバイオトイレ。
  • 休憩:テン泊者は小屋内での休憩はできない。
  • その他:木造の古き良き山小屋。正月頃に長岡竜介氏によるフォルクローレコンサートが催される。
  • 電話番号:090−2533−0620
  • ホームページ:http://www.kuroyurihyutte.com

 冬のテント泊で気になるのは、積雪の状況や補給の方法などです。

 積雪についてはホームページ内の小屋番さんによるブログの写真を見て、雪の状況を知ることができました。私は前日に電話で確認し、積雪約50cmとのことでした。2020年の年始は暖冬とのニュースもあり、例年より少なめのようです。水や食料の補給、トイレは小屋があるので安心ですね。

図 黒百合ヒュッテのテント場

 手続きを終えたら、テントを設営しメインザックをデポ(不要な荷物を置いていくこと)して、本日のメインイベント、天狗岳ピストンへ出発です。

天狗岳ピストン

 サブザックの中身は、以下のようなものです。

  • 行動食、水
  • ヘッドランプ
  • ハードシェル
  • 救急セット、ブランケット
  • 火器(ガスバーナー、ガスカートリッジ、コッヘル)

 火器は、使う予定がなくても低体温症の危険のある冬季は持っていきます。低体温症時に温かい飲料を飲ませ体温を回復させるためです。パーティーに1セットあれば良いでしょう。

 サブザックに最低限の荷物を詰め、10:20に天狗岳へ向けて出発します。

図 中山峠
右の夏沢峠・天狗岳方面へ向かう

 樹林の中を数分行くと中山峠に至ります。指導標に従い右手(南)へ曲がると、間もなく森林限界を超え目の前に天狗岳の威容が飛び込んできます。天狗岳は東西の2つの峰からなります。

図 東天狗岳(左)と西天狗岳(右)

 同時に強い風に晒されるようになるので、ハードシェルを着用したりオーバーグローブをはめたりして対策をします。中山峠以南は10本爪以上のアイゼンにピッケルを装備した雪山のフル装備で臨みます。

 ヒュッテから東天狗岳へ向かうルートは、溶岩台地である天狗の坪庭を経る西側のルート稜線伝いに行く東側のルートの2つがあります。今回は往路で稜線のルート、復路で天狗の奥庭を通ります。稜線伝いのルートは、風が強く斜度も強いため雪庇に注意します。

 ピッケルで確保しアイゼンを効かせて一歩ずつ登ります。高度を上げるに従い遠くの景色が見えるようになってきます。時々、登ってきた道を振り返り写真に収めます。ちょうどいい休憩です。

 ヒュッテから約1時間をかけて11:30頃、東天狗岳頂上に到着。360度の大パノラマが広がります。

図 東天狗岳山頂

 北側に茶臼山や縞枯山など2日目以降に向かう北八ヶ岳の山々が、お碗を伏せたように連なっています。その先には蓼科山、その左手には車山や美ヶ原が見えます。

図 車山
図 美ヶ原

北北東には佐久平とその背後に聳える浅間山。

南東には野辺山の町、金峰山の五丈岩。

図 佐久平と浅間山

南に目を向ける根石岳、硫黄岳、その先に主峰赤岳、阿弥陀岳など南八ヶ岳の峰々。西側には茅野の街とその先に北アルプスを望みます。

図 南八ヶ岳の山々

 それにしても風が強いです。一通り写真撮ったら西天狗岳へ出発します。

図 左から硫黄岳、赤岳、中岳、阿弥陀岳

 東天狗岳を下ると風が幾分緩くなり、日差しのぬくもりを感じます。

図 西天狗岳

 雪山の魅力の一つは、青い空と白い山肌のコントラストではないでしょうか。

「『雪山は危ない』について考える」

 風さえしのげたならそんな景色を楽しむ余裕も生まれます。3月の木曽駒ケ岳でも感じましたが、風は想像以上に体力を奪います。防風は大切です。

図 西天狗岳へ登る人々

 東天狗岳から約30分、12:20ごろ西天狗岳頂上に到着です。東天狗岳よりも広い山頂です。風も弱まったので、景色を眺めたり記念撮影をしたりして休憩を撮っている方が多くいます。

図 西天狗岳山頂

 西天狗岳山頂からは根石岳山荘が見えます。天狗岳への最寄りの小屋だそうです。真っ白に凍りついてケーキの上の砂糖菓子のようです。

根石岳山荘のホームページはこちら。

図 根石岳山荘

 12:40頃、下山を開始します。

ふかふかの雪のおかげで膝への負担は夏よりは少なく感じます。

 帰りは、すりばち池方面へ向かいます。

 この頃になると、小屋に戻ったら何食べる談義が始まりました。友人が「黒百合ヒュッテはビーフシチューが有名らしい」との情報をもたらし、私の頭の中はすっかりビーフシチューに占められてしまいました。終わってもいないのに気が早いものです。

図 すりばち池

 時々、登山をしない方から「歩きながら何考えてるの?」と質問されることがあります。「歩くだけで何もすること無いんじゃないの」ということでしょう。

 これは登山者や登山のスタイルによっても異なると思いますが、一般の登山道を歩くときの私は無心あるいは何を食べるかでしょうか。

 登る前は、計画を立てたり地図を読んで予習をしたりと考えることが多いのですが、歩き始めると眼の前の世界をただ受けとめていることが多いです。

 休憩中などは「今、左側の谷が詰まってきたからもうすぐ稜線に出るはず。それなら後これくらいでこんな景色が見えるはず」など、これからのことを考えたりします。

 岩稜帯ではどこに手足を置くかを考えたり、ルートファインディングが必要な難易度の高い場所では積極的に地図と地形を比較して現在地を確認したりします。しかし、こうした緊張を強いられる場所は私の登山の中では少ないので、自然と無心になったり自分の身体の声に耳を傾けるたりすることになります。

 多忙な現代社会に生きる私達にとって、何も考えない時間は貴重かもしれません。登山を終えた後、身体は疲れているはずなのですが、不思議と頭はスッキリしていることが多いので、精神的な休養となっているのかもしれません。


図 黒百合ヒュッテを見下ろす

 少し脱線しましたが、天狗の奥庭を経由して黒百合ヒュッテに14:00前に戻りました。待ってろビーフシチュー。

黒百合ヒュッテ泊

図 玄関前のメニュー表

 ヒュッテは食事が豊富です。遅めの昼食にビーフシチューセットをいただきました。セットでは、付け合せにライスかパンが選べます。到着した時はすでにライスは売り切れていましたが、ビーフシチューにありつけて満足です。

図 ビーフシチューセット

 友人ふたりはヒュッテに宿泊します。シチューの温かさが冷えきった身体に染み渡ります。山の上で温かいお料理がいただけるのはありがたいですね。

図 夕食
友人提供

 食後はなんとコンサートです。内容は南米の縦笛であるケーナによるフォールクローレの生演奏!

 「コンドルは飛んで行く」、「コーヒールンバ」、「アンデスのお祭り」や「上を向いて歩こう」などの曲を演奏してくださいました。

図 ヒュッテの共同スペース

 奏者の長岡竜介氏です。黒百合ヒュッテとは学生時代に悪天候の中を訪れて以来の付き合いで、今年で約40年目だそうです。年末年始は滞在しコンサートを行なっているそうです。

 ご興味のある方は長岡竜介ケーナホームページをご覧ください。

図 長岡竜介氏のケーナ
日本の尺八に似た楽器

 コンサートの合間には、南米やフォルクローレの豆知識、黒百合ヒュッテや八ヶ岳の歴史の紹介もあります。

 本氏によると、ヒュッテの前の道は6,000年前からの街道で、縄文時代は諏訪と佐久を結んでいたそうです。今日、私達が歩いた道を昔の人々も歩いていたと知ると、自分が悠久の時の流れの中に生きているのだとにわかに意識します。そして、麓の営みは変われど、ここで目にする山並みや星空はあまり変わらなかったのかもしれないとか、登山靴や温かい衣服もなかった時代の峠越えはどれほど大変だったのだろうとか思いを馳せます。

 そんなこんな考えながら、ケーナの音色とともに夜が更けていきました。お正月の黒百合ヒュッテ、暖かかったです。

1月 北八ヶ岳を新春登山!天狗岳・茶臼山・縞枯山を2泊3日で縦走 2日目」へ続きます。

参考

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